色を想う

色を想う

春のおとずれを感じる気候になりました。春といえば節目の季節であり、様々な式が行われます。だれしも服装や小物の色に悩んだりした経験があるのではないでしょうか。
入学式では淡いピンクやベージュ、ホワイトなどのスーツ姿をよく見かけます。見ているこちらまで爽やかな何か新しい出会いに心がときめくような気持ちになりますね。一方、卒園式ではネイビーやグレー、ブラックなどのダークカラーが多く選ばれます。キリっとした厳かな雰囲気で、旅立ちの誓いが伝わってくるようです。
このようにその場にふさわしい服装をすることはドレスコードといって、場に統一感や雰囲気を出すために昔から決められてきました。なかでも絶対的な色のイメージをもつものとして結婚式が挙げられます。多くの人が無意識のうちに清潔さや祈りを表す色がホワイトという認識を持っているのです。

このように様々なシーンで用いられる色は、印象というものに大きな影響を与えてきました。
私たちの日常は色で埋め尽くされています。普段の生活で意識することは少ないかもしれませんが、じっくり周りを見まわすと様々な色が目に入ってきます。私たちは知らず知らずのうちに日々、色というものに影響されているのではないでしょうか。

色にはそれぞれ人の気持ちに与える意味合いを持っていて、例えば赤は情熱や明るさを、オレンジは陽気さや活力、コミュニケーションを表し、緑は調和や平穏、リラックスを表すと言われています。意味を知らなくともなんとなく色を見て誰しもが感じる想いがあるのではないでしょうか。

色の効果はビジネスにも使われています。バレンタインデーには赤の広告が増えるのは、どこかその気にさせるというか、秘めた情熱の背中を押すような意味が込められているのかもしれません。スポーツのチームカラーは団結力を生み、そのチームカラーに想いを込めて奮起します。色を身にまとうことによって自分がさらに強くなったような、おまじないのような効果があるのかもしれません。

このように色に意図的に想いを込めることの他に、無意識に想いがこもっていたりもするでしょう。感情と色はどこか深い部分でつながっていると思わざるを得ません。

心理の分野では、色彩はカラーセラピーやアートセラピーに用いられたりもします。直感で色を選んだり、実際に色を使って絵を描いてみてその意味を考察したりするものです。
つまり、色の力によって人の気持ちを和らげたり、癒したり、時には言葉にできない気持ちを発散したりできるのです。
アートを自分で造り上げることでも、自分の気持ちに沿った色彩のアートを鑑賞することでも効果はあると思います。
なにか心がもやもやした時や、うまく伝えられない何かに悩まされたときは心のままに絵を描いてみたり、心が惹かれた絵や色と客観的に対話してみたりすることで良い方向に向かうかもしれません。
注意点として、自分の描いたものや気になるカラーが自分に恐怖を与えるものであった場合はセラピーにおいてもおすすめされていません。この場合は専門的なカウンセリングの必要があります。日常の中においては、このような心に直接働きかける用い方としてはネガティブな意味で用いるよりもポジティブな意味で楽しむのもだと思います。

先日、スマートフォンショップで店員さんとこのような会話をしました。その店員さんはスマホを4台もっているらしく、理由を聞くと、仕事用や趣味、人間関係のカテゴリーで使い分けているとのことでした。スマホを見せてもうと所有者が同じとは思えないほどそれぞれに様々な画面の色やケースをしていました。 それを見た私は、意図的にしろ意図せずにしろ、そのカテゴリーへの気持ちを投影しているように感じました。そしてそのコミュニティの中にいないときはそのスマホを持たずに出かけるそうで、これもまた驚きました。私なら自分の関わる全部のことが常に気になるからです。例えば自分と関わるものを円グラフにしてみると、その中心に自分がいて、常に360度ぐるぐる見回しているようなスタイルになります。一方でスマホを多数持って用途ごとに完全に使い分けている人は、自分と関わるカテゴリーの丸がたくさんあって、その中に自分が出たり入ったりするスタイルといえるのではないでしょうか。カテゴリーを完全に切り離した時間を持っていることに驚くとともに、人間関係のストレスを軽減でき、まるで違う人格かのように切り替えられることを少しうらやましくも感じました。

そんなことを考えながら店頭のスマホの陳列に目をやると、ずらっと並んでいるスマホを前にしてかなり悩んでいる人がたくさんいました。機種選びはもちろんですが、色で悩んでいる人が結構いて、自分の好きな色を選ぶことは意外と大変なのかもしれないと思いました。単純にどの色も好きだからとか、この色が自分に合うとか、そのような気持ちもあると思いますが、おそらく色を選ぶ際にその時々の感情が少なからず影響力を持っていて、今その時の自分の感情と理性の間で葛藤があるのではないのかと。なんとなく身体で感じている好きな色と頭で認識している自分の好きな色に相違があるとき、瞬発的な判断がしにくくなって悩むことがあるのかもしれません。昨日はこの色がいいと思ったのだけれど、やっぱりあの色がよかったなというのは誰しも経験があるのではないでしょうか。そのような葛藤を乗り越えて選んだその色は、毎日目にする大切な色になります。

以前、有名な料理研究家の方が、食器によって料理にあたたかみがでたり、高級感が出たりするので食器の色選びは大切だと言っていました。同じ料理でも料理自体を縁取るものの色で完成品の印象が大きく変わってくるとはなんと興味深いことかと思いました。食事という日常のひと工夫でも気持ちが明るくなったりほっとしたりできるのです。食卓を囲む人の笑顔を思い浮かべながら食器を選ぶなんて素敵だと思いませんか。

スマホや食器だけでなく、日常触れているあらゆるものにもこの視点を向けてみると見逃していたハッピーが隠れているかもしれません。
日常にあふれている色を感じて注目してみることで、何気なく色彩と共有している空間をより意味深い大切なものとして感じることができるのではないでしょうか。普段の生活にお気に入りの色を取り入れることで少し元気をもらえたり、楽しい気持ちになれたらいいですね。